表参道ソフィアクリニック
1386年頃 - 1466年12月13日
ドナテッロには二つの方向性があるかとも思われます。ひとつは、権力志向的、権威主義的な方向性です。もうひとつは、素朴な芸術的な方向性です。前者は一見見応えがあるようでいて、段々に飽きてきて、なにも感じなくなってしまいます。それに対して後者は、いろいろな方向から見て味わいのあるような見応え感があるようです。
また、木彫りは写真では見た目にもよくて個性的であるように思われても、しかし、実物は特にこれといって感銘を受けるようなものはありませんでした。
バルジェッロ 国立博物館(bargello)にもドナテルロのすぐれた彫刻がいくつもあります。ここに置いてある作品をみて気がつくことは、どの方向から見ても、作品としての見応えがあるということです。これは実部を見てみて、自分にとっては一つの発見でした。ただそれだけでは、ドナテッロの作品を鑑賞しても難しいと思われます。
ドナテッロにおいては、人間の情念の表現が特徴的かつ特異的です。この観点から観ると、その良さが伝わるものがあります。
408年
ダビデ
ドナテッロの初期の作品です。どの方向から見ても作品としてみれます。
ポーズの取り方。手指の仕草。身体の捻り方。どこから見ても見応えがあります。
足元には、ダビデの彫像らしく、ゴリアテの大きな頭部が転がっています。たいてい、ダビデの彫像は、ゴリアテを倒して首を取った後の場面が描かれます。
ダビデは遠くを見ています。何を見ているのでしょうか。
1409年
Crucifix
1412−1413年
Santa Croce, Florence
素朴な印象の彫像です。農夫のようだとも言われることがあります。
1410-11
St John the Evangelist
Marble, height 210 cm
Museo dell'Opera del Duomo, Florence
1412-13
DONATELLO
Crucifix
Wood, 168 x 173 cm
Santa Croce, Florence
1415年 - 1417年
『聖ゲオリギオス像』
Saint George
Beardless prophet
1416 - 1418
thoughtful prophet
1418-1420
1418年
Prophet with Scroll
Marble, height 195 cm
Museo dell'Opera del Duomo, Florence
この美術館においてあった一連のドナテッロの諸作品と同様にあまり印象に残るものではありませんでした。
sacrifice of Isaac
1421
1418
DONATELLO
The Sacrifice of Isaac
Marble, height 191 cm
Museo dell'Opera del Duomo, Florence
1425年 - 1427年
「対立教皇ヨハネス23世の霊廟」サン・ジョヴァンニ洗礼堂
サン・ジョヴァンニ洗礼堂はフィレンツェの象徴でもあり、フィレンツェでは人々はここで洗礼を受けるのでした。
聖堂内は大聖堂のような大きさではなく、比較的こじんまりともしています。有名なのはドーム全体を飾る金ピカのモザイクの「最後の審判」です。
このように、フィレンツェ市民にとって馴染みでありつつ誇りでもあった聖堂内に、疑惑の人でもある対立教皇ヨハネス23世の霊廟を設置するとは。よくもこう目立つ場所にせっちしたものです。この疑惑は濡れ衣だったという説もあります。何れにしても、この霊廟を見て、誰が感銘を受けたのでしょうか。コジモ1世の後押しでこの人物が教皇にまで上り詰め、この人物が教皇庁から数々の犯罪的行動をとがめられ告発されたことにたいして、コジモはあるいは猛然と反論すべく、真実を主張すべく、このような霊廟を設置したのでしょうか。
この人物はかくも立派な人だったのでしょうか。
実物は高い位置にあって、このようには見ることができません。写真写りもよいせいか、金ピカに見えます。当時は黄金色に輝いていたのですが、現在では、実物はこんなにピカピカしていないでしょう。この画像や他の画像をみても相当の力作にみえます。
Jeremiah
1427 1436
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂ドゥオーモ付属美術館(フィレンツェ)に展示されています。
向かい合わせに、対比的に、あるいは競争的に対面した壁に設置されています。
室内に入ると、まず一見して、その豪華で細密なこの作品の方に目を引かれ、対面の作品よりはこちらの方がいいように思われました。
しかし、何度も見比べているうちに、もう一つの作品の方が、素朴で、歌を歌う印象が良いとおもわれます。ドナテルロのほうは、どうも、権力志向的というか権威的というか、装飾過多で、ゴツすぎて、見ているとやがて何も感じない、感覚鈍麻の状態になりさえします。(2016年)
豪華絢爛ですがドナテッロの感情の表出の表現と音楽は必ずしもそぐわないのかも知れません。(2019年)
1430s
Bust of Niccolò da Uzzano
Polychrome terracotta, height 46 cm
Museo Nazionale del Bargello, Florence
こうして画像で見るととても見栄えがよさそうで、期待していたのですが、こういった写りのよい写真を見てから実物を見たからか、拍子抜けというといったところでした。
サンタクローチェの聖堂内、正面に向かって右手側にそれとなく設置されています。
思ったよりは大きくなくて、どちらかというとこじんまりとまとまっているような印象を受けました。
写真で見ると金が装飾的にあしらわれて、大抵美しく輝いています。写真では見栄えがするものです。しかし、実物を見て、教会のなかがそんなに明るくないせいか、全体に印象はくすんで、ほとんどピンときませんでした。殊更に精彩を感じるものではありません。
のちに考えると、この作品は、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂ドゥオーモ付属美術館(フィレンツェ)の『カントリア』(1433年 - 1438年)ような非常に豪華な装飾が施された作品とこの作品の装飾性は似ているのではないかと思われます。つまり、ドナテルロには、素朴路線と、このような豪華路線があるのではないでしょうか。これはある意味、素朴と豪華が入り混じったものでもあるかもしれませんが。
しかし何度か見て、違う見方をすれば、新たな発見があるかもしれないのですが。
1435年
Donatello’s “Prophet” (1435-36).
PHOTOGRAPH BY DEAGOSTINI/GETTY
この写真が素晴らしく、個性的で躍動的です。この作品は写真写りがよいです。
まるで東洋の僧侶か仏教系の彫刻のようにさえ見えます。
でも、本物はサンタ・マリア・デル・フィオーレ教会の附属の博物館にあったと思うのですが、意外に印象に残りませんでした。
もっとも美術史的に意義のある作品でしょう。このように、躍動的に人間性を描くのはキリスト教芸術においては先駆的でもあるでしょう。そしてそれも含め、クワトロチェントの他の諸作品と比べて異質な傾向があるのが個性的です。
1440年
ダビデ
これはどこから見ても作品として見応えがあります。ドナテッロの作品にはそのようなタイプのものがあり、注目です。とくにバルジェロ美術館にはそのようなタイプの作品が多いように思います。
1455-60
これはヴェッキオ宮殿の正面側に設置されている彫刻群の一つです。
旧約聖書の有名な物語を描いています。
この男は、もうすでに息絶えているか、もしかして眠っているのかもしれません。しかし、腕を不自然にだらりと垂らして、全く力なく、意識を失っているのは、ほぼ死んだに等しい状態です。無抵抗になったこの敵の大将にむけて、怖い顔をした女が、剣を振り下ろそうとしています。
この男のトドメを刺すためか、あるいは、おそらくは首を切断するためです。
洗礼者ヨハネ
少年の頃のヨハネを描いています。
これもまたどの方向から見ても絵になります。
苦行していた頃のヨハネだから痩せているのでしょう。かなり痩せていていますが、ガリガリというほどでもなく、美しくスレンダーなニュアンスを残しています。ただ、肩はなで肩になり、胸のあたりは肉が落ちて肋骨が浮き出てきて、頬はこけ、口は半開きなのはかなり栄養状態が悪いことを表しています。
またヨハネはしばしば毛皮をはおっています。
1457
DONATELLO
St Mary Magdalene
Polychrome wood, height 188 cm
Museo dell'Opera del Duomo, Florence
これをみてもさほど感銘を受けるものではありません。もっとも当時としては大変に異色な作品であったでしょう。
DONATELLO
The Passion Pulpit
1460-65年
Marble and bronze, 137 x 280 cm
San Lorenzo, Florence
迫力のある作品です。多くの人物と事物が浮き彫りになっていて、コテコテ気味です。
近くで見ると芸術的な香りもします。
木彫りのようにも見えます。
老年期に作られた作品としては、大変に精力的です。