表参道ソフィアクリニック
1808年
『浴女』
ルーヴル美術館"La Grande Baigneuse"
古典的であり、上質に静かに落ち着いています。
木綿の生地の質感が木綿らしいです。
女性の裸の肌のグラデーションが緻密です。
構図が重要です。また写実性が重要です。
全体に、光と陰の微妙な具合を表現しています。
アングルの最も上品な美しい作品の一つです。
アングル28歳ごろの作品であり、アングル自身の若々しさとみずみずしさが表れていると思われます。
1845年
アングルは60歳代にしてこの絵に3年もの年月を費やしました。
この女性は由緒正しい家柄の王女ルイーズ、18歳でドーソンビル子爵に嫁ぎました。この絵が描かれたのは彼女が20歳代初め頃で3人の子供をもうけていました。彼女は伝記作家に、<私に幸せを求める全ての者を欺き、魅惑し、そして最後に苦しみを与えるのが私の使命である>、と述べたと伝えられています。これは夫に対する言葉であるかもしれません、あるいは他の男たちかもしれません。もっとも夫は終生彼女を愛し続けたと言われています。彼女は文学にも精通していて、バイロンやアイルランドの革命家ロバート・エメットの伝記など多くの書籍を出版していました。いわゆる賢女でもあり、そしてfemme fataleのような人だったのでしょう。Exciting and rejecting、つまり引きつけ興奮させ、うっちゃってしまって苦しませるのです。男たちは苦悩と幸福で翻弄されたことでしょう。アングルも彼女に魅惑された一人でした。この作品が公表された時、絶賛の嵐を巻き起こしたと伝えられています。
(Frick Collection 2018)
ルーブル美術館展 国立新美術館2018年
Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Angèle Dequier /distributed by AMF-DNPartcom
1842年
さすがアングルというような作品です。
この軍服姿の男は、誇り高く、堂々たるポーズです。気持ちとしては1メートルくらい上から見下ろしているようなふうであり、その眼差しはただ彼方を望んでいます。長身で、優れた運動能力を有しているような体型として描かれています。また、おしゃれで、清潔感があります。
彼は、7月王政のフランス王ルイ・フィリップの第1王子、フェルディナン・フィリップ (オルレアン公) (Ferdinand Philippe d'Orléans)です。彼は王位継承者でした。このような軍服姿に表現されているように、彼は皇太子でありながらも軍人としてのキャリアも華々しいものがありました。また文学や美術にも造詣が深く、受けた教育も思想的にも自由主義的でした。他の画家による彼の肖像画と見比べると、この作品が特に優れていますが、多少なりとも理想化しているでしょう。この皇太子は国民にも大変人気があったようです。彼は、英雄的でもあり、知的でもあり、繊細な文化を理解していました。アングルは、次の王になるのにふさわしい、希望の星のように描いています。
しかしフランス革命で廃絶された王政が復古して以降、王党派(その実体はブルジョワが優勢)にとっての理想的な王とは、政治的なイニシアティブをもつ有能な王なのか、それとも、王党派たちの言うことをよくきく王なのか、この絵画から見るとその両方とものようにも思われます。希望の星でありながらも、空元気のようなところもあって、どことなく実体性が乏しいようにも見えます。この時代の王の立場は微妙であったのです。結局王政は数年後の1848年の二月革命で無様にも倒壊し、ルイ・ナポレオン(のちのナポレオン3世)が政権を取りました。
オルレアン公は、1842年、馬車の事故により31歳で早世しました。この作品は、この事故の数ヶ月前に描かれました。もし新しい時代にふさわしい王にになり得たこの皇太子が生きていたならば、フランスの歴史の流れは大きく変わっていたかもしれません。
オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボンについてはこちらも参照
1856
Mme. Moitessier
2017年1月オルセー美術館での第二帝政時代の展覧会にて。
豪華で堂々として、安定感があります。繁栄が背景にあります。それも国の経済全体の繁栄を背景としているようです。
生地の美しさ、特に宝飾品が多く身につけられています。描かれているあらゆるアイテムが豪華です。この女性は肉付きがよく、なめらかな肌、古典的な表情ををしています。その限りでも新古典主義なのでしょう。
微笑の意味は少なく、指差しは意味が乏しい内容のようであり、また空虚でもあるようにも思われます。
第二帝政時代の時代の雰囲気も表しているように思われます。