表参道ソフィアクリニック
Jean Honoré Fragonard
1732年4月5日 - 1806年8月22日
「ぶらんこの絶好のチャンス(ブランコ)」(Hasards heureux de l'escarpolette) 1767年頃
I'escarpolette エスカルポレットとはブランコの古い呼び名のようです。普通はブランコはbalançoireバランソワールです。何か違いがあるのでしょうか。ありきたりなbalançoireバランソワールよりは I'escarpolette エスカルポレットの方がロココ的で貴族的な趣のある響きもあるのではないでしょうか。
この作品は大変有名で、フラゴナールの最も知られる傑作です。
大変細かく描き込まれています。スカートの中が見えて男が大喜びで目を見開いています。絶好のチャンスです。女性はサンダルをわざととばしています。男はそんなサンダルのことなど全く御構い無しで、異様な目つきでスカートの中を垣間見ています。異様な興奮で、男は腕を伸ばしますが、それはファルスでもあります。この腕は女性に対する賞賛も兼ねています。
しかし、この女性はサンダルをわざと飛ばせて、あとで男に拾わせに行かせるのでしょう。男はお安いご用とばかりにそれを拾いに行くでしょう。この女性はおそらく生娘。この若くてみずみずしい生娘が、わがままに、おもうがままに、男心を魅惑して弄ぶのです。しかし男も結構図太そうです。二人がひと時であれ共犯関係をとり結んだ瞬間でもあります。
キューピットもいます。キューピットはひたすらじっとこの女性を見つめているようですね。
絶妙な瞬間を捉えています。
構図は女性の帽子あるいは頭部を頂点としたピラミッド型であり、陽光がスポットライトとなって女性を美しく照らし出しています。服の襞は躍動的です。
(ウォレスコレクション・ロンドン 2018年1月)
ルイ15世の最後の愛妾デュ・バリー夫人がフラゴナールに注文した作品群です。ここでは4つの愛を描いています。これは夫人の半生ともかかわるものであり、夫人の恋の戯れから求婚そして承諾に至るまでを描いています。
1. 思春期から大人になりかけているみずみずしい少女です。彼女は美しく、そして知的な雰囲気が漂い、彼女には光が当たって照らし出されています。少年は一輪のバラを彼女に捧げます。これは戯れのプロポーズです。
2. 壁をよじ登る少年。
3. 愛の結実、つまり結婚です。
4. 恋文を読む新婚夫婦。
(Frick Collection 2018)
1780年
Le verrour 閂(カンヌキ)
フラゴナールの素晴らしい描写力を示す作品の一つです。光に照らし出されて柔らかくけぶる婦人。ロココ期の退廃のありようを赤裸々に描いています。上品な表とは裏腹に隠された空間で繰り広げられる欲望の発露。女は半ば拒み半ば抱擁しています。なぜだか男は既に下着姿です。テーブルの上にリンゴ1個が置いてあるのはわざとらしいくらいに意味があからさまです。これはおそらくは不倫なのでしょう。男が閂を入れているところは姦通の象徴でもあるのでしょう。そして心的空間の扉の閂を閉めることでもあります。またこの作品はフランス革命の一大カタストロフの勃発前夜であり、そのダイナミズムとも呼応しているでしょう。この閂を行為は占める歴史の大きなうねりと危機的状況から隔てることでもあるようです。そして夫人は過ぎ去りゆく歴史と階級の運命を愛おしむかのようです。(2017年12月ルーブル)