表参道ソフィアクリニック
確か諸説があったと思いますがヴィーナスの誕生の物語によれば、おそらくこの波の泡沫はウラノスの切り取られた男根から出てきた精液によってできたものであることをほのめかしています。わかる人にはよりいっそうのエロチシズムを伝えるように意図されているのでしょう。
ヴィーナスの目覚め=誕生をキューピットたちが祝福しています。大人の女性の性愛と小児の性愛の不思議な呼応です。
美しい白い肌や表情グラデーションの巧みさ、ブロンドの美しい髪の毛の表現は卓越しています。
しかし総じてこの絵に、とりたてて何かがあるわけではありません。背景の青空の 空間が間が抜けたようであり空疎な感じもします。この青空のごとくに絵も空疎な内容になっているようです。それがまた原初的な雰囲気を醸し出していると思われます。
(2017年12月オルセー)
1870年
Mort de Francesca de Rimini et de Paolo Malatesta
フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの死
【2017年1月 オルセー美術館常設展にて】
フランチェスカの夫の弟がパオロです。
まだパオロは生きていて、恋しい人フランチェスカの顔を見ています。この人の表情は、穏やかで幸せそうに見えます。これで二人の苦しみに満ちた状況は終わりました。純粋な愛に生きることができます。これで本望というふうです。しかしダンテの『神曲』では、貫通の罪により二人は地獄に落とされて暮らすことになります。体の関係を結んだ道らなぬ恋ゆえに。
ダンテ『神曲 地獄篇』第5歌
第2圏 淫乱
憤怒の姿が恐ろしいミノスの管轄する場所です。
ここには愛欲にふけった者たちの魂のいる場所です。クレオパトラ、ヘレナ、トリスタンとイゾルデなどがみられます。
そしてフランチェスカ・ダ・リミニという既婚女性とパオロ・マラテスタというその義理の弟が恋人同士にだったのですが、この二人がここにいました。二人は道ならぬ恋にはいって命を奪われ地獄に落とされました。ダンテがラヴェンナで客となっていたころには二人はまだ存命だったようです。二人は夫のジャンチョットにより1285年に殺害されました。つまり夫は自分の妻が弟と不倫をしていたことに怒り、殺害しました。この実話は当然大変有名になりました。殺害された二人は、神によって地獄に落とされました。そしてここ第2圏、淫乱の罪悪にいて責められています。
もっとも第2圏では、あまり恐ろしい怪物も現れず、責め苦は比較的軽いところでした。この二人は美しく悲しい恋愛であったが道を誤ったということになるでしょう。
ダンテは意識を失い次のステージ第3圏に至ります。まるで解離のように一つのステージから次のステージへと移りゆきます。