表参道ソフィアクリニック
ヴァイオリン:アリョーナ・バーエワ
シューマン/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
第1楽章
出だしから素晴らしい演奏です。抑制が良く効いていて、穏やかに、そしてバランスがとれていて、それでいてドラマティックで情感が深いです。友愛が満ちていているところは、シューマン的友愛とでも言えるようなものです。そしてその情感に心が揺さぶられる思いがしました。そして中産階級の生活におけるホメオスタシスのなかを動いて推移しているというふうです。それは単調さと反復もみられるのもまた自然の成り行きとでもいうでしょうか。名演奏です。
第2楽章
統合失調症によって失われてゆくという事態において、存在を描いているように思われます。一種の「実存的音楽」とも言えるかも知れません。生演奏でないとこの微妙な感覚はわかりにくいかも知れません。
第3楽章
ここは明るく、結局深く進む方向にはなりません。軽くて、浅薄です。総崩れ感があります。結局、未来志向的な観点では、このような浅薄さなのかと思われるのでした。「苦難から歓喜へ」という筋道が、とても浅薄なままに終わりました。
この楽曲を作曲していた時期に、シューマンは既に幻聴に煩わされていました。先々、シューマンの精神は解体に向かいます。ヨアヒムは、シューマンの妻クララと相談してこのヴァイオリン協奏曲の初演を見送ったばかりでなく、この作品を公開することさえ控えたといます。第2楽章のテーマは幻聴によって得られたメロディだとのことです。
ダメな楽曲と見なされても、また蘇るものです。
2022年5月 N響 東京芸術劇場にて