表参道ソフィアクリニック
以下はラファエロが20歳前後に描いた肖像画です。
以下の4作品並べてみますと、ルネサンス初期の古い雰囲気を湛えていて、そこが味わい深いと思われます。
ただしラファエロ作と推定されていて、ラファエロ自身の作品ではない可能性もあるということにようです。
1502-1506 ElisabettaGonzaga
・ラファエロ作と推定されているものです。
506-1508 男の肖像
・ラファエロ作と推定されているものです。
・ラファエロの師のペルジーノの肖像とされていました。
1506-1508 グイドヴァルト・モンテフェルトロの肖像
・ラファエロ作と推定されているものです。
・正面から描かれています。
・印象的な作品です。
1506年 自画像
23歳の頃の自画像。
有名な作品です。
実際の作品は、パッと見た目にはそんなに注意をひくような作品でもありません。
ラファエロの穏やかで柔らかな画風が現れ始めているのかと思われます。
上の2点
1505年ごろ依頼
パラティーナ美術館にて
これは夫婦の肖像画です。2枚で1組です。しかしパラティーナ美術館ではこれを並べているのではなくて、なぜかしら2枚の間にはラファエロの「エゼギエルの幻視」という作品を挟んでいます。それはなぜでしょうか。何の意味があるのでしょうか?
公認ガイドのp108によれば、裏には通称セルミドの親方の手による「ノアの洪水」と「洪水後の人類の再生」が明暗方で描かれていることから、夫婦が子宝に恵まれることを祈って、この絵が注文され描かれ、夫婦の寝室に飾られていたようだとのことです。
アニョロ・ドーニの肖像 (左・男性)
これも初期ルネサンスの雰囲気を残していますが、より進んだ表現になっています。
マッダレーナ・ドーニの肖像 (右・女性)
モナ・リザに似ています。
これも初期ルネサンス風を残しています。
草原の聖母
<ウィーン美術史美術館にて>
牧歌的風景のなかにいます。三角形あるいはピラミッドの調和の構図ですが、少し左側に寄せてあります。
ヨハネが捧げ、あるいはヨハネに与えられているように見える十字架ですが、ヨハネは洗礼者であるので、一種のメディエーター・媒介でもあります。マリアはそんなヨハネの方に目を落としています。彼女はどこまでも静かで優しくたおやかで穏やかですが、悲しい予感をもって見つめています。
赤いケシの花。足元の植物も美しく細密に描かれています。ここは14世紀の細密描写の影響が大きいように思われます。
1506-1508年
聖母子(大公の聖女) 公認ガイドのP105
公認ガイドによれば、これは19世紀の所有者が大公であったことから「大公の聖女」とも呼ばれるようになりました。また、背景の黒色は後に時代の趣味に従って塗られたとのことです。
実物を見ますと、これは美しいです。落ち着いた美しさです。
やわらかです。軽いスフマートのような、輪郭のぼやけ方もみられます。
穏やかで、神秘的です。それに、背景にある密やかな暴力の物語がひかえた冷徹なものも滲んでいます。
マリアはかくも多面的に色々な人間になるものなのでしょうか。
La Vierge à i'Enfant avec le petit sant Jean - Batiste, dit La Belle Jardinière
1505 - 1508
若くして成熟した作品です。ルネサンスの成果がラファエルのうちに早熟に現れたのでしょう。
穏やかで、優雅、そして、デモーニッシュさも漂っています。
人間、自然、神という三つの領域が、それぞれ別の世界として分けられるのですが、相互に浸透し合っています。
musée du Louvre en janvier 2019
1512年
教皇ユリウス2世
教皇レオ10世と同じサイズの作品です。
「軍人教皇」とも呼ばれ、また莫大な財力を蓄えた教皇です。
迫力のある存在感です。
素晴らしい深みがあります。
善と悪の両方が融合したような表情をしています。
美術館の部屋の中で、教皇ユリウス2世と教皇レオ10世(ユリウスの次の次の教皇です)が向かい合わせになっていて、同じサイズでもあり、同じような画風でもあり、対応関係にあるようでした。ラファエロには幾つかの絵のスタイルがあると思われますが、その一つがこれらの作品です。
ピッティ宮殿には、ティツィアーノによる同じ作品があります。ラファエロの方が全然良いです。ティツィアーノのほうはいかにもショボそうです。宝石もラファエロの方が大きくしっかりと描かれていて豪華です。ただしどちらが現実に近いかはわかりません。ラファエロの方がうまく描きすぎている可能性もあります。ただティツィアーノも対象を相当に理想化して描く画家かもしれませんので。
1513−1514年
聖母子と幼い洗礼者ヨハネ(椅子の聖母)
この絵画はやたらとでかい金色の額縁に入れられています。特別扱いでもあるのでしょう。額縁が大げさで、バロックのようなコテコテの装飾で金ぴかです。
伝承によれば、ラファエロがフィレンツェを訪ねるときに村の母子を見かけてこの絵を描いたというごく素朴な物語でしたが(ただし、ラファエロが描いた木は十字架の木が変転したものだともされていました)、それがこのような額に入れられて変転を遂げて変身するとは。
マリアは優しげで魅力的な美しく優しい母親です。このうえもなく美しい聖母像です。母親ですが、娘のようです。この絵画ではイエスやヨハネよりもマリアの方が焦点でしょう。
このマリアは挨拶をしてもいます。ラファエロに挨拶をした時の光景でもあるのでしょうか。挨拶といえばダンテの『新生』にでてくるベアトリーチェの挨拶も思い出されます。ダンテはベアトリーチェと挨拶くらいしか交わしたことがなくて、挨拶とは、とても重要でした。
またエロチックとまではいかないかもしれませんが、神秘的なくらいの美しい眼差しと笑みです。
レオナルドの『モナリザ』での神秘的な笑みとも似通うところもあるかもしれません。ラファエロのこの作品の女性像は、注文主にとってたまらないものがあったのではないでしょうか。
これは、教皇レオ10世によって注文された作品です。この装飾付きのポールのように直立したものは椅子の一部分です。これはズバリ言えばファリックなものではないでしょうか。
この椅子は教皇の宮廷のみで使用が許された椅子だということです。そのために椅子の聖母とも呼ばれています。
日本語では「小椅子の聖母」とされたりしますが、これは「小椅子」なのでしょうか?
1514 - 1515 バルダッサーレ・カスティリオーネ
商人のように見えるが、作家であり外交官であり『宮廷人』という著作で知られているとのこと。
ラファエロは深みに欠けるようにも思われる。美しく端正で個性的です。
Louvre 2020
1516年女性の肖像(通称「ヴェールの女」ラ・ヴェラータ。)
Ritratto di donna (La Velata)
85×64cm | 油彩・板 | パラティーナ美術館(フィレンツェ)
ラファエロの恋人ではないかとも指摘されてきましたが、この指摘は根拠がないと公認ガイドでは説明しています。
大きな目。小さく愛らしい口もと。きめ細かな肌。
明るく、聡明、謙虚で自然なまま、飾らない性格、素直。こういった性格の良さがでています。比較的素朴な印象もあります。その点、聖母子と幼い洗礼者ヨハネ(椅子の聖母)と同じでしょう。
衣装や装飾は豪華です。
この衣装からしてとうてい身分の低い人だとは思えません。もっとも下層の女性をモデルに立派な衣装を着せて描いたとも考えらなくもないのですが。
1516年と1518年の間
預言者エゼキエルの幻視 パラティーナ美術館
これは小さな作品です。
ドラマティックです。
この物語はどのようなものでしょうか?
そしてまた、この絵は、最後の審判にも似てないでしょうか。
ウィキペディア:読んでもあまりピンときません。
1518年 教皇レオ10世
有名な作品の一つです。ラファエロの作品としてだけでなく、レオ10世という歴史上の人物を描いたものとしても有名です。
レオ10世は、ロレンツォ・イル・マニフィコの次男ジョヴァンニであり、ロレンツォが早くから彼を教会で出世させようと画策し、史上最年少で枢機卿になりました。そしてロレンツォの死後に、教皇に選出されました。彼はメディチ家からでた教皇の最初です。
・写真で見ていた時には、実感がなかったのですが、実物は、迫力と存在感があります。意外に大きな画面というかちょうど良いサイズです。
・理想化することなく対象を描いています。
・対象を理想化しなくても、この絵画の全てが、画家の偉大さを表してもいます。
・レオ10世は人文教育をうけた教養人であり、彼が机の上に置いてあるのは豪華写本(ミニアチュール)であり、虫眼鏡でそれを見ていたというシチュエーションです。メディチ家はコジモのころから人文教育を受けるようになっていて、父親のロレンツォもそうでしたし、ジョヴァンニもそうでした。そして彩色写本、豪華写本を蒐集するのも、メディチ家の趣味でもありました。集めたもので図書館も作ったりしています。
・ウフィツィの公式ガイドによると、後ろに立っている二人は枢機卿であり、別の画家が後から描き加えたのではないかという仮説もあるそうです。ヴァザーリのこの絵の描写によれば、窓や部屋の様子が描かれていたとされているからであるのと、近年の修復からそのような仮説が立てられました。この仮説が正しいとしても、この二人の人物はこの作品の存在感を減じるものではありません。
ユリウス2世とレオ10世を並べてみます。