表参道ソフィアクリニック
ティントレット Tintoretto
父親が染め物師であったため、染め物師の息子という意味である「ティントレット」と呼ばれました。
Jacopo Comin (Jacopo Robusti),
1518年 - 1594年
ヴェネツィア派の中でもとりわけ強い明暗(高いコントラスト)、躍動、過剰なまでのドラマティズムが特徴です。
誇張の度合いが強いです。
ミケランジェロふうの力動とティツィアーノふうの豊かな色彩を併せ持つとも評されることもあるようです。
蝋人形を小さな木製の舞台の上に配置して、様々なアングルから蝋燭の光で照らしてデッサンをしたりもしていたようです。
バロックの先駆かとも考えられます。つまりバロックの躍動感、赤と青のコントラスト、複雑性などの面で。
Le Siège d'Asola 1544−1545
自画像1547
「使徒の足を洗うキリスト」1547年
この作品が元々置かれていた場所では、この作品を右斜め下から見上げるように観ていたようです。ですから正面から見るとイエスの姿は端の方によっていますが、斜め下から見ると、イエスの姿が大きくみえて、画面全体がダイナミックに見えるようになっています。これは魅力的な構図です。周辺部が暗くなっているのも、構図的によいです。
物語は、最後の晩餐です。作品の場面は晩餐のはじまる前にイエスは腕まくりとエプロンのようなものとつけて本腰を入れて、弟子たちの足を洗っているところです。戸惑う弟子たちにイエスは「もし、わたしがあなたの足を洗わないなら、あなたはわたしと何の関わり合いもなくなる」と話しました。弟子たちは靴を脱いだり、洗い終わって、足を拭いたり、靴を履いたりしているようです。
テーブルの上にはパンと杯が一つずつ置かれていて、これはイエスの肉と血を表す定番です。ほぼ中央の柱の陰には裏切り者のユダがいて、その対角線のところに忠誠を表す犬が描かれ対比されています。見えにくいですが、画面右奥の別室では、イエスが弟子たちを祝福しているらしい場面が小さく描かれています。
奴隷の奇跡 (聖マルコの奇跡)
1548年 サン・マルコ大同信会館
作品によってティントレットは注目を浴びるようになったといいます。
中空には聖人が飛び、地面には奴隷が倒れています。双方が短縮法で描かれています。
劇的な構図。色彩。強い明暗。
力強い表現。
30歳ころの作品ですが、すでにティントレットらしいダイナミックなドラマ仕立てで描かれています。
物語:敬虔なキリスト教徒である奴隷が、主人の許可を得ず、聖マルコの墓を詣でたために、死刑を宣告されて殺されようとしていたところ、天井から聖マルコが飛来し、それを止めました。
ヤコブス・デ・ウォラギネ著の『黄金伝説』には、イエス、マリア、天使ミカエルのほか、100名以上にのぼる、聖人たちの生涯が章ごとに紹介されています。このなかに、聖マルコ伝のシーンが描かれています。
Présentation de Jésus au temple
1550
動物の創造 1550年 アカデミア美術館
『創世記』に題材をとった「原罪」「神の前のアダムとエヴァ」「アベルを殺すカイン」と喪失した1点、合計5点の連作の一つです。
神は「産めよ、増えよ。海の水に満ちよ。鳥は地の上に増えよ」と唱えつつ、動物たちを創造しました。この言葉は力強い言葉です。ここに描かれている神は、神々しいエネルギーを発しています。このエネルギーの一部が動物たちのエネルギーになっています。動物のエネルギーは神々しさは失いますが、その片鱗を分有しています。とくにそれは運動エネルギーに変換されています。それは先々には生殖のエネルギーにもつながることが予想もされます。動物たちは、神の力によって、一気に発出されたのです。それは盲目的でもあるのですが、しかし極めてはっきりした根拠のある力強い発出であるように思われるのです。
魚や鳥は群れをなす特性があると観ているところにもこの画家の着想が由来しているようです。
La Tentation d'Adam et Ève 1550
Assomption de Marie
1555
Chiesa dei Gesuiti (Venice)
Lamentations sur le Christ mort
1555 -1559
Le Christ guérit le paralytique 1559,
Saint Roch guérissant les pestiférés 1559
カナの婚礼 1561年
ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会所蔵
La Découverte du corps de saint Marc, 聖マルコの遺体の発見
1562, Milan, Pinacothèque de Brera.
聖マルコ伝説の連作のひとつです。
聖マルコは、エジプトのアレキサンドリアで、処刑されました。西暦828年に二人のヴェネツィア商人がアレキサンドリアの聖マルコの遺骸を祭った僧院を訪れ、それを買い取りました。それは現在、聖マルコ大聖堂の内陣の白い棺に収められていて、ヴェネツィアの守護聖人となっています。
この作品では、聖マルコの発見の時を空想的に描いています。まず伝説通りに、聖マルコの肉体が腐敗しておらずに、そのままの肉体で発見されて、それを引き下ろしています。それを床の上に横たえます。その側で両手を広げて感動しているのが、この作品の注文主です。左端に大きく描かれているがっちりした体格のよい男(後光がさしている)が聖マルコその人の霊です。彼は本(聖書)を抱え持っています。右側の身体をねじった半裸の男は、「悪魔に憑りつかれた者」であり、彼の頭上には煙が漂っています。またそれと呼応するように、宙には奇妙な霊気のようなものが漂っています。
エジプトのアレキサンドリアを引き回されて処刑されたサン・マルコの遺骸ですが、これから焼かれようとするところを、信者たちによって阻止されました。この肉体は、腐敗せずに、そのまま後生までのこり、828年に発見されることになります。
背景には、聖マルコを焼くための薪が山積みになっています。
アカデミア美術館では、この作品は廊下の端の壁に設置されていて、他の作品と同様にこの作品もすこし雑な展示のされ方のように思われます。ただ長い廊下ですからこれを遠くから眺めることでき、集中して鑑賞できるので、悪くない展示の仕方だと思います。
自由闊達で巧みな描写がす。実物を見るといい絵だという印象をうけます。なかなかいいものです。チントレットの代表作の一つという実感があります。
宙に漂う雲のような霊気のような筋は、ただササッと引かれているだけです。また背景もかなり早く描いています。
2019.4アカデミア美術館
フラーリ教会のすぐ裏手にあります。サン・ロッコはペストに対する守護聖人であり、15世紀に聖ロッコを記念して同新組合が作られました。
またこの教会は1階と2階に分かれていますが、1階はティントレットによる8枚の壁画で占められていて、聖母マリアの生涯の物語、つまり受胎告知から聖母被昇天に至る物語です。1階は装飾も壁画も質素です。スカルパニーノ設計の大階段で二階に上がりますが、豪華になります。この階段の両側は、かなり黒っぽくて見づらいですが、両側の壁全体に壁画が設置されています。何が描かれているのかピンときにくいのですが、それはペストの惨状のシーンです。よく見えないしピンときにくいし、実感がわきづらいものです。
2階は、これもティントレットによる21点の天井画で埋め尽くされています。1階とは対照的に2階は豪華絢爛で、凄いゴテゴテしていています。なにか良いものを観たという実感は生じません。
また奥に向かって後方の左手奥には「接客の間」があります。ここには4枚のティントレットによる壁画があります。こちらの方が注目の作品です。
この接客の間から2枚を以下に挙げています。
「ピラトの前のキリスト」1565-67年
ヴェネツィア、 サン・ロッコ同信会館、アルベルゴの間
清廉一筋の白無垢姿のイエスにたいして、ローマ総督ピラトの描写が重要です。ピラトはイエスが潔白であることを知っていますが、かといって群衆からの圧力のために無罪の評決をだすことができず、イエスから目を背けて、自分の手を洗います。緊張と萎縮のために彼の肩は上がり縮み、背中は曲がっています。彼は軸を失っています。この絵の中で彼は孤独で、自己の存在の希薄さから逃れようなく絡みとられています。イエスは、言葉無く、主張無く、ただその存在だけが真実の強い力を空間に放ち、それをピラトにも及ぼします。
キリストの磔刑
1565-67年 ヴェネツィア、 サン・ロッコ同信会館、アルベルゴの間 蔵
代表作の一つとも評価されている作品です。
十字架にかけられたキリストを中心にして、同心円状の構図になっています。キリストは神々しいエネルギーに満ちて、両腕を広げ、来たるべき時に この世界に拡がるであろう神の世界を予示しているようです。これはこの画面に描かれている俗的な意識の人々の集団とは対極をなします。右手前の二人の人物は、キリストの衣を奪う順番を決めるためにサイコロを振っているらしいです。
他の二つの十字架は、一方はキリストに背を向けていて、もう片方はキリストの方を向いていますが、これは対になっていて、一方は悔い改めていないもの、もう一方は悔い改めてたものであり、最後の審判の日に救われるものと救われないものの二分化を表すものであろうと思われます。他の人々は、そのどちらにもなり得る人々で、いわば未決の人々です。
またキリストの足下には、マリアや近しい人々、そしてどれかはよくわかりませんが、聖ヨハネやマグダラのマリアが含まれているのでしょう。
ティントレット アルヴィーゼ・コルナーロの肖像 Portrait of Alvise Cornaro
Oil on canvas, 113 x 85 cm Galleria Palatina (Palazzo Pitti), Florence
1565年ころ
パラティーナ美術館
本物はこの写真よりも細密であったと思います。
パラティーナ美術館の公認ガイドによればこの人物は「謹厳なる生活」1558年の著者として知られるアルヴィーゼ・コルナーロ(1484−1566)であるとのこと。
迫真の描写が見られました。また静かで迫力あるリアリティが見られるように思われます。肖像画の領域において、このような迫真の描写はこの時代の特徴かもしれません。つまりティツィアーノ、ブロンズィーノ、ヴェロネーゼなどです。
ただし、他のティントレットの肖像画作品を見ますと、たまたまこのような作品が出来上がったのかもしれないとも思われます。
ティントレットは広角レンズで撮影したような遠近感とどこにも焦点が当たっている被写界深度の深さ、それに加えてダイナミックな動きが特長でもあります。
1570ー75
マルタとマリアの家のキリスト
Venus and Adonis
ティントレットのイメージとは異なります。チントレットふうの泥臭いくらいの誇張ではなくて、優雅でエロチックな作風です。またなめらかで整った描写です。宗教画ではなくて、ギリシア神話を描いたからというのもあるでしょう。
ウフィツィ美術館2019.5
自画像
1588年
ルーブル美術館
La Cène, 1592-1594: ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会
74歳頃から手がけて、82歳頃に完成しました。
弟子たちが書いたところも少なくないかも知れません。
ティントレットの作品としてはこれが一番有名です。ティントレットの中でも、最大級に誇張表現されたドラマになっています。また
天使たちの描写。
絵の正面には祭壇が設置されており、このように斜め下の角度から見ると、よりダイナミックに見えます。元々からこのような配置になっていたとしたら、画家は、意図してこういった効果をねらっていると考えられます。
参考 ギルランダイオとの比較
ギルランダイオ《最後の晩餐》1480年
静かなたたずまいです。
船に乗ってこの島に行きます。この教会の主な作品はティントレットの「最後の晩餐」です。それ以外にもたくさんの宗教画が設置されています。これらの宗教画は下から見上げるところに鑑賞地点があることが割と明瞭です。また鐘塔は、晴れていると360度見晴らしがよくて、海はボートが行き来してとても活気あり、本島もよく見えます。
Jews in the desert
上の作品の対面に置かれているのがこの作品です。
ANDREA FRIZIER
制作年?
滑らかな描きぶりで、文字や紋章が入っているせいもあるのか、画面全体がどことなく決まった印象があります。見栄えのする肖像画です。
パラティーナ美術館2019.7