表参道ソフィアクリニック
william holman hunt THE AWAKENING CONSCIENCE 1853-54
有名な絵画であり、かつ、印象的です。ブルジョワ階級と思われる金持ちの男の妾になっている女性です。豪華な室内でもありますが、意味ありげに、いろいろな事物が、あちこちに散りばめられ、あるいは散乱しています。その中で、とくに、猫が小さな小鳥をもてあそんでいる、という猫の肉食系の特性を表しています。人間は人間に対して、また、男は女に対して、肉食系でもあります。ここでは、悲惨な近代的な習俗の一面を表しています。女は自立と良心に目覚めて立ち上がろうとしています。タイトルである「良心の目覚め」となっていますが、良心、つまりCONSCIENCE とは、善悪の判断をよく知っていることです。男は、「さあどうぞ」とでも言っているように手で仕草もしています。でもこの女性の自立は容易なことではないようです。相当の覚悟が必要なのでしょう。時計は、時間をあらすのですが、その時が来た、今しかないでしょ、というような啓示の一種を表しているのでしょうか。女性の目つきは、上を見つめ、必ずしも、現実を見ているわけではなさそうです。女性の表情には、現実性を欠いた脆弱性が垣間見られ、狂気とさえ親和性があります。床には、もつれた糸が落ちていて、混乱を表していると思われます。また、見ようによっては、この女性がラファエル前派の女性に目覚めたかのようでもあります。
彼女は明らかにこの金持ちの男のファルスの延長物になっています。それからは、抜こうにもなかなか抜けられないと思われます。ファルスの囚われとも言えるかも知れません。それが、この男にとっては愉しいのです。手放しでも、この女が抜けられないのが、愉しいのです。
でもやがてとんでもないしっぺ返しがあるかも知れないのですが。
背景は、窓ではなくて、鏡です。鏡は何かを意味しているのでしょうか。彼女は自然に満ちた明るい室外にむけて動いているようにみえます。この部屋は鳥かごのようでもあります。鳥かごの扉が開いているのですが、実際には、そこからは鳥が飛び出すことは困難かも知れません。
布・生地の表現は細密です。独特の画風です。 事物の描写など克明にして、魅力的なところがあります。批判精神やアイロニーも込めて描かれています。てんこ盛り的でもあり、それがこの絵画の持ち味でもあるのでしょう。
ハントは、ラファエル前派の代表的な画家の一人ですが、ただ、絵画全体としては、どれほどの優れたものがあるかどうかは疑問点も残ります。
また、そもそも、ここでいう「良心の目覚め」とは何のことでしょうか。
また、鏡を配置して女性の背中を写す意味がよくわかりません。一般に背中backとはこころの内を表すことも少なくありません。鏡は真実を映し出すものともされます。しかし、この背中backには何も「内面」を読み取ることが出来ないのです。内面の無い空虚さが、その真実ということになるのでしょうか。
(ラファエル前派展 英国のヴィクトリア朝絵画の夢 森アーツセンタギャラリー 2014年1月)
この女性は幻想を見つめているような目つきです。光り輝く外界に向けて。猫と小鳥はこの男と女の関係と照応しています。猫の狡猾な目は、この男の内面を表しているのでしょう。<どうぞ行ってみたまえ>という手付き。<行くなら行ってみろ>。猫も小鳥を逃すかのように見せかけて、また捕まえて何度も楽しむのです。逃れられない女性です。しかし逃げる力があまりに強いと、本当に逃げてしまうか、狂気に陥るかです。(2018年1月ナショナルギャラリー)