表参道ソフィアクリニック
印象派展は、1874-1886年のあいだに、合計8回開催されました。印象派展はグループ展であり、グループ展は当時としては画期的でした。
・サロン=官展
筆触分割:絵のマチエール(素材)の存在感と効果と手さばき、つまり筆触をあらわします。
モネは具象的なものもよいですが、モディフィエされた具象の絵画のほうがむしろ面白味があります。
モネは、絵そのものとしての良さがありますが、それとは別に当時や過去の美術界の歴史において、モネが出るべくして出て、画風が決定されたということかと思われます。モネ風の提示でもあって、それはモネの個性とも融合していました。
巨大画です。未完に終わって劣化したところをモネ自身で切り取ったものです。
マネの同名の作品に対する賞賛と、挑戦の意味を込めてモネが制作した大作。彼はこの作品を未完のまま質屋に入れたため、買い戻したときには傷んでいて切断せざるをえなかった。-JTB 街物語 パリ-から
若きモネの大作のひとつです。来るべき印象派のあるいは印象派の草創期の見応えのある素晴らしい逸品です。臨場感があり、省略と筆触の巧さ、光と陰の表現、人々の集う情景の何気ない場面を表現しています。
一種独特な重みがあり、この鉛的な重みはセザンヌも初期にはそのような傾向があったのと似ています。七変化のモネですから、これはつかの間のものではあったでしょう。それとともに、優雅でおだやかな音楽的叙情もこの絵にはよく似合います。それに並存して生々しい一種の現実感もあります。これら相反するような要素も組み合わさって、芸術的な香りがあります。重みと叙情のひとときの結合によって芸術性が生み出されました。
先の巨大画を、モネ自身が劣化したところを切り取りましたが、この作品はそれを新たに中くらいのサイズで描きなおしたものです。
プーシキン展2018年
モネが若かりし頃に描いた超有名な代表作の一つ。美術史的に見ても、美術の歴史に一石を投じる重要な作品とされています。水面の表情を新しい手法で効果的に描こうとしています。人間たち、あるいは人間性は副次的であり、この絵は、色彩、光と陰、形態、遠近などの総合的な描写を通じて、新しい絵画としての絵画を描くことを主要な目的にしています。またこの19世紀半ばを過ぎたあたりのフランスの新しい時代の雰囲気を新しい描き方でリアルに反映しています。
(The Metropolitan Museum of Art, 2018)
「花瓶 」Vase of Flowers 1881年および1920年
30号弱くらいの作品です。
堂々として充実した作風です。1881年41歳頃に着手して、40年たった1920年頃つまり80歳頃になって花弁や葉に加筆してサインしたとのこと。壮年期の活発さと老成の両方が重なっています。晩年は白内障で目も悪くてかなり衰えもしていましたが、オランジュリー美術館で観られるように睡蓮の連作も充実していて、壮年の勢いとこの時期の充実が重なるのはなかなか素晴らしいものです。
コートールド美術館展 2019年12月
1877年 花咲く堤、アルジャントゥイユ
夕暮れ時、近景の花と後景の工場が対比されています。産業化においても絵になる雰囲気を見いだされます。
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ
セーヌ河の日没、冬 1880年
冬の河の光景で、これも印象的な絵です。解氷の浮かぶ水面、夕日が赤々と厚塗りされています。『印象』の絵にも近いですが、こちらのほうが具象的であるが故に、しかも、筆触が雑であるが故に今ひとつかもしれませんが、いい絵です。
自然のオリジナルが現れているような、寂しさ。冬の独特の雰囲気です。また冬から春に向けての移り変わりがあります。
これは記録的な寒波によってセーヌ川が氷結した次の年に氷が割れて流れ出しているところを描いたものだとのこと。
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ
「Monet In the light」2021年5月ポーラ
モネは大聖堂のファサードが見える部屋を借りて、時間帯によって変化する光の効果を観察して計30点の連作となりました。
これは午後6時ごろの様子です。季節によっては、このように太陽が沈むのが遅いです。まだ昼の雰囲気も残しつつ、夕方の陽光でオレンジ色で照らされています。
「Monet In the light」2021年5月ポーラ
1885年 エトルタの夕焼け
夕陽で部分的に赤く鮮やかに染まった空。夕暮れ時の一瞬を表しています。
「Monet In the light」2021年5月ポーラ
1885年 ジヴェルニーの冬
白い雪の荒い階調、むき出しの地面、靄がかかってけぶる湿度の高い大気。
雪にも青系と茶系を加えて描いています。
「Monet In the light」2021年5月ポーラ
1886年 ポール=ドモワの洞窟
色が綺麗です。筆触がとりわけ目立つようにして、海、岩の表情を出しています。明るい光の効果を表現しています。
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ(茨城県立美術館所蔵)
モネ 小舟
1887年
水草の揺らめき、深さ、怖さ、波乱。死を想起させるようでもある、誰もいない船です。
マルモッタン・モネ美術館所蔵
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ
1898年にモネとロダン展を開催して、大成功し、名声が不動のものとなりました。その後1890年代にはモネはグループ展から個展の時代へと入りました。
モネ バラ色のボート 1890年
若さと死が知らず知らずに接しています。死の近くにいることを知らないけれども、もう死に染まっているかもしれません。
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ(茨城県立美術館所蔵)
とても早く描かれたようです。向かって左手側の女性の目は、死者の世界の目のよう。(2021年ポーラ美術館)
モネの睡蓮の連作は200点以上が残存しています。
画家自身が「水の風景」と呼びました。モネには、水にまつわる作品が多くあります。
モネの睡蓮連作は、多少なりとも抽象化されて、天国化あるいは涅槃化されていて、その諸様相を表しています。そしていくつかのタイプにも分かれています。
セーヌ河の朝 1898年
荒々しい波乱。
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ
国立西洋美術館所蔵
1900年 国会議事堂、バラ色のシンフォニー Houses of Parliament, Symphony in Rose
パステル調の青と赤のシンフォニーです。黄泉の世界のような、独特の世界を垣間見ます。
ロンドンの霧の状態、湿度、光の具合(効果)の微妙で複雑な兼ね合いを描いています。
モネはこの年ロンドンに滞在し、対岸に部屋を借りて国会議事堂の連作を制作しました。
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ
「Monet In the light」2021年5月ポーラ
(茨城県立美術館所蔵)
モネ しだれ柳 1918-1919年
フランスでは柳が、涙を流して悲しむ樹木として、墓地に植えられていました。モネはとくに第1次大戦の最中にこのしだれ柳を集中して描くようになり、それは犠牲者への追悼からであったようです。
「モネとマティス―もうひとつの楽園」2020年8月ポーラ美術館
マルモッタン美術館所蔵
第1室
夕方と夜が対面して対照となっています。また朝と昼が対照となっています。つまり次のような組み合わせです。
・朝−昼
・夕−夜
入口を入って右手側は朝、その次が夜、その次が昼、そして最後に夕方。この夕方は入口の左手側になります。
第2室
涅槃の世界に近いというか、涅槃の世界です。キリスト教的というより仏教的なものに近いです。あるいは無宗教的です。モネは何か信仰していたのでしょうか。
死の世界のイメージ。穏やかさと朽ち果てと腐敗が見られます。死のおどろおどろしさ。不安、そして穏やかでない内面のな波だちも見られます。
多面的に心情を表しているのでしょう。平和な側面もあったりしつつ、死を前にしたモネが死についての多面的な心情を表したものと思われます。樹木は柳ばかりです。柳は日本の木です。ここでは柳は、死を表しています。
1番くらい画面である1枚目の絵から左手側に一周しながら見て見ましょう。朝、とりわけ早朝でしょうか。時間差があるようで、混沌としたまだ暗いうちから、次第に左回りに明るくなってきています。死を感じさせるような闇の残る早朝から次第に明るくなり心情の波立ちも残りつつ、最も落ち着いた時間帯を過ごし、次第に現れてきた青い雲を映し出す睡眠へと移り変わり、穏やかさが現れます。明るくなるとともに心の波立ちも現れます。そしてそこはかとない混乱。しかし、一貫した死のイメージの柳が各画面に描かれています。早朝というスペシャルな時間帯を描いています。早朝には日中には見られない特別な雰囲気、印象があります。刻々変化するものは、モネの描こうとしたテーマでもありました。
暗い1枚→少し明るい1枚→ちょうどより明るさの1枚→かなり明るくなる1枚。