表参道ソフィアクリニック
1870年11月25日 - 1943年11月13日
フランスの画家、著述家。ナビ派の一員。
ナビ派全体にも言えることかもしれませんが、特にモーリス・ドニの諸作品の特徴に関してです。
作品に描かれていることはあまり言葉には変換出来ない、あるいはそうする意味も感じられないある種の無意味さがあります。テーマ性の欠如も特徴的です。装飾性が高く金持ちの部屋に飾って美しく、大中小のブルジョワのそれぞれに対応しているようであり、作品毎に大中小ブルジョワのランク付けが出来そうです。それぞれの作品は市場的価値があるとともに階級的な区分もありそうです。
作品は目利きで新しい感覚が分かるブルジョワの愛好家向けです。新鮮な感覚を好むブルジョワです。ブルジョワのニーズにあったものです。
またそれ以外に、芸術運動の流れの一つとして、内輪向けの作品もありうるでしょう。
また、古代性、ステンドやタピスリーとの親和性もあります。
<2017年春三菱一号館美術館『オルセーのナビ派展』にて>
美の預言者たち―ささやきとざわめき
1890年
磔刑像への奉納
<2017年春三菱一号館美術館『オルセーのナビ派展』にて>
小さいサイズの作品です。
平面的でほぼベタ塗り、そして色と形のコンビネーションです。これはフォーブの先駆けともなるような色使いですが、しかし静かで整ってもいます。フォーブは静かでありません。それにこの作品は素朴であり、フォーブは素朴な感じはあまりないと思います。比較的落ち着いた派手さや原色のない色使いで、フォーブの色使いとも異なります。
輪郭線があるのはナビ派の特徴でもあります。
1890年のドニの言葉「絵画が本質的に、一定の秩序のもとに集められた色彩で覆われた平坦な表面であることを思い起こすべきだ。」この言葉は、この作品の一面を表しています。
赤色が主調ですが、この赤色はイエスの血の赤色のようです。
人々の素朴なキリスト信仰のようです。
磔刑の台座には、パスカルの言葉「私はお前のためにかくも血を流した」と記されています。
マレーヌ 姫 の メヌエット
1891年
<2017年春三菱一号館美術館『オルセーのナビ派展』にて>
かなり存在感のある作品です。表情や手の表現、楽譜、構図、デザイン、装飾的平面性に独特の雰囲気が漂っていて存在感のある作品となっています。特にこの目が印象的です。この女性は後に妻となるマルトです。絵の中のマルトは落ち着いてはいますが、その目には情熱らしきものがこもっています。楽譜はメーテルリンクの戯曲につけられた楽曲だとのこと。当時マルトはこの作品を読みふけっていたとドニは日記につけていたそうです。
色彩は独特の渋い華やかさと艶やかさがあります。
1893年
ミューズたち
大作です。ステンドグラスであるかのようなニュアンスがあります。穏やかな光で透けているかのようです。女性の肌のグラデーションも繊細です。(因みにステンドならばエナメルで彩色されたということになるでしょう)
描かれているのは当時の上流社会での女性ばかりの集いであるとともに古典古代的であります。穏やかで上質にして上品な豊かな空間を醸し出しています。女性たちは古典古代の、つまり古代ギリシア神話におけるミューズたちと重ね合わせられているらしいです。ミューズは本来9人の姉妹。しかし10人目の人物が画面中央の一番奥に描かれていますが、これは誰でしょうか。
前景に描かれているのは画家のマルトだとのことです。ということはマルト以外の女性たちが9人姉妹のミューズということになるでしょうか。
当時の女性たちと古典古代のミューズと重ね合わせられ、芸術の起源でもある理想的な世界です。
そして装飾的な図柄です。
<2017年春三菱一号館美術館『オルセーのナビ派展』にて>
これは中から大ブルジョワクラスを対象としたような絵画です。ステンドグラス風のクロワゾニスムCloisonnismです(ゴーギャンのクロワゾニスムとはその点で異なっています)。装飾的で、図案化されています。この図案化の仕方がアートとしてのポイントです。(2017年12月オルセー)