表参道ソフィアクリニック
ジュゼッペ・リベーラは、スペイン人ですが、若くしてイタリアに渡り、生涯の大半をナポリ(当時はスペインの領地)で過ごして、ついに母国に帰ることはありませんでした。
ペテロのこの黒い目と同様に全体に空虚です。ペテロの空虚さを表しているのでしょうか。ペテロは無力で、憐れで、能動性や自発性に乏しく、愚鈍であり、なんの取り柄もないくらいです。ただびっくりしています。ペテロは囚われの身ですが、おどおどして天使に手錠を外してもらっているだけです。そして天使はペテロに出口を指差して導いています。ペテロには知力を感じさせられるものを何も描かれていません。この黒い目は蒙昧に近いです。貧弱です。構図も貧弱、背景の暗い灰色も空疎さが拡がっています。天使は黄金色に浮かび上がり、美しくて明るく優雅に照らし出されています。ペテロとは対照的です。ペテロはローマ・カトリックの初代教皇とされています。そういった人物が、いかに天使の前だとはいえ、このように描かれるのでしょうか。ペテロの能動的なところは一切描かれていません、その受動性のみが描かれています。
腐敗を極めていたローマ・カトリックに対する批判が暗にこめられているのでしょうか?それとも無力で何の取り柄もまさそうなペテロに何か重要なものを見出したということなのでしょうか?ローマ・カトリックに元々の素朴な原点に帰れと言いたいのでしょうか?この絵は意外に多層的な内容があるのでしょうか。
この作品は、カラヴァッジョの影響がみられます。カラヴァッジョの描くペテロとも似たような顔です。ペテロは、天使に牢獄から助け出されても、結局このように逆さ吊りの刑にされます。天使に救い出されても、恐れおののくのも、やむを得ないかもしれません。
国立西洋美術館プラド美術館展2018年
カラヴァッジォによる『聖ペトロの逆さ磔』
1600-1601