表参道ソフィアクリニック
この肖像はエラスムスという思想家です。ここでのエラスムスは、どことなく満足げで、自分の著作の上に手を置いています。古典古代の文献を研究した人文主義の学者ですが、それとともに彼は『痴愚神礼讃』の著者でもあります。その双方合わせて、彼は当時のトップレベルの知識人です。広大な支配地を持ち、フランスなどと覇権を争っていた神聖ローマ帝国カール5世もルターの宗教改革による新旧対立の終息に向けて、エラスムスに意見を求めることもありました。彼は、あまりに真面目なルターに対しては、しばらくキリスト教から離れてみてはどうか、と大胆な助言をしたり、また他方ではローマ・カトリックの腐敗をあげつらったりもします。新旧のキリスト教の間を行く中道派です。
また彼は賢人であるとともに、『痴愚神礼讃』では、いわば「良き愚かさ」の重要さについて説き、世にはびこる「悪しき愚かしさ」を非難したのでした。「痴愚神」つまり馬鹿の神様は「人間は愚かしければ愚かしいほど良い」、と演説するのです。ルターのような真面目なスタイルとは対極にあるポジションです。またラブレーのガルガンチュやパンタグリュエルのドタバタ喜劇小説もこの系列にあります。
(2018年1月ナショナルギャラリー)
『痴愚神礼讃』の破天荒さもこの肖像画の表情に垣間見られます。そして知性も。愉しむ表情。知恵があり、老成しています。
National gallery,2020.1
トマス・モアは大法官にまで上り詰めた男。しかしヘンリー8世に逆らったということで反逆罪に問われ、1535年に斬首されました。SSSが鎖状になっているのは、王に仕えるという意味です。
(Frick Collection 2018)
上の写真は自分で撮影したものです。ぼやけていますが、このほうが実物をより表していると思います。
google art projectではプロが撮った細密な写真があります。拡大もできます。しかしこの写真は実物の印象とは異なり、引き締まっています。実物は引き締まった感じがなくて、上のように緩んだ感じがします。
1533年 大使たち
前回と同じ感想ですが、修復によって安っぽくなっていないでしょうか。
このドクロでこの作品はことさら有名になっているように、全く個性的な着想です。なぜこのようなことを思いついたのでしょうか。
vanitéの品の数々が描かれていますが、もっともこれらの品々が必ずしも虚しいものだというわけでもありません。
何かよくわからなくても、全体としては大変な作品であることを感じさせてくれます。
また生と死の闘争も背景にあると思われます。 (2018年1月ナショナルギャラリー)
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やはり修復の仕方が変ではないでしょうか。コッテリとして整いすぎていて、色に深みがありません。厚塗りがいけないのではないでしょうか。
なぜ髑髏をおいたのでしょうか。あまりにも唐突です。当時、こんなものが許容されたのでしょうか。これだけの写実に、これだけ突拍子もない髑髏像とのコントラスト。古くから絵の中に髑髏を描くのは、よくあることで伝統のようなものですが、この髑髏をメタモルフォーゼにすることで、ほとんど最大限に髑髏の効果を上げています。台の上に置いてある品々は、ヴァニテ(虚栄、虚しさ、はかなさ)の面があって、髑髏と呼応しています。
絵全体としては、ほぼ完全に静止しています。そして絵の中に人物や事物が固定されています。
床の模様が綺麗です。そして全体に素晴らしいと思われます。
National gallery 2020.1