表参道ソフィアクリニック
1858年生ー1921年没
・画材:油彩とクレヨン(色鉛筆)。とくにクレヨン(色鉛筆)という画材による表現が注目です。
・叙情的な雰囲気。
・19世紀末という時代。
・象徴主義という美術史のなかでの位置づけ。
・インターテクスト:同時代のほかの画家たちとの関わり。たとえばドガ、バーン・ジョーンズ、ギュスターヴ・モローなどからの影響。
Portrait de Marguerite 1991年 油彩
画家の姉または妹です。シンプルですがとても良い絵です。単にこの女性が立っているだけなのに、印象的な構図です。繊細であり落ち着いた色合いです。雰囲気があります。クノップフの油彩の中では代表的なものです。細密ですが、鉛筆やパステルで描いたものと比べると、劣るようです。
シューマンを聴きながら En écoutant du Schumann 1883 油彩
ここに描かれているのは画家の母親であり、ピアノの演奏を聴いています。音楽はクノップフの好みの作曲家の一人であるシューマンのものです。左端には、演奏中の手の断片が見えます。母親は額に手を当ててこの楽曲を聴いています。なるほど母親は音楽に集中するために額に手を当てているのでしょうが、シューマンの楽曲は叙情的であり、こんな風にして集中して聴くものではありません。母親の表情は手で隠れていて、どのような感情なのかは読み取れません。推察するに母親は過去のことを思い出して強く心を動かされているのではないでしょうか。それは画家にとっては未知のものであり、母親は息子に知られたくなくて、手で表情を覆い隠しているのでしょう。
構図は巧みで、印象的で一見してとても良い作品です。画面の雰囲気や、画角の切り取り方はドガと似ていてます。この作品はドガの影響を受けていると思われます。
この画家は裕福なブルジョワジーの家庭に生まれ、この部屋の何もかもがわりと上質です。
クノップフの作品は、細密さと叙情が特徴的であり、特にその本領が発揮されているのが、先を細く尖らせたクレヨンcrayonなどを使った作品です。今で言う色鉛筆みたいなものでしょう。印象派の画家たちと比べれば、クノップフの油絵は総じて細密なほうですが、マルグリットを描いた作品はとりわけ細密に描かれています。もっともこのマルグリットの作品でこれほどまでに細密なのは、クノップフの油彩作品の中では例外的であり、それ以外の油彩作品では細密さが損なわれて、どことなく冴えない印象さえあり、驚嘆を引き起こすクレヨンの作品とは対照的です。彼のいくつかの優れた油彩画たとえば「シューマンを聴きながら」は、クノップフ本来の画風と言うよりはドガ風に描いていて、愛撫するスフィンクスはモロー風に描いています。子供たちの肖像は、バーン・ジョーンズ風です。
クノップフの油彩をクレヨンがと比較して観ていると、油彩の方向性がはっきり定まらなかったのではないかと思われます。クノップフの真骨頂が現れるのはクレヨンかと思われます。
色鉛筆は、顔料をワックスなどで固めていて先が硬いので、筆圧だけでコントロールできるので、細密に描くことができます。それに対して油彩や水彩は、毛先が柔らかく、が液体に混ざっています。そのため、筆圧、顔料の濃度、水分の分量、毛先のまとまりのなさ、などが攪乱要因としても余計な作用をしやすいという困難を常に伴っています。
Portrait of the Children of Monsieur Nève (1893),
Memories 5 (Lawn Tennis)1889年