表参道ソフィアクリニック
1849
Christ in the House of His Parents (`The Carpenter's Shop') - Google Art Project
非常に細かい細密画です。キリストはマリアにキスをしようとして、マリアは頬を差し出しています。しかし、マリアはキリストの掌の傷と出血を見ていて、不吉な予感、来るべき運命を知っているかのように、悲痛な表情となっています。その血は、足の甲にも落ちています。背後では、精霊である鳩が見守っています。
見劣りするところもります。写真の危うさ、インパクトのなさ。こじんまりとしています。左右対称の構図。
Tate, 2020.
このマリアナという若く美しい女性は、持参金が尽きたために、婚約者から見捨てられました。彼女は刺繍の製作に取り組んでいますが、その合間に背伸びをしています。季節は晩秋でしょうか。窓越しの植物の表現の細密にして巧みです。これもまた自然の描写・写生を重視したラファエル前派の特徴の優れた一例であると思われます。室内にも葉っぱが落ちています。これはイチジクの葉でしょうか。マウスも一匹床をはっています。衣装の青色の鮮明さが印象的ですが、これはオットマンの生地の赤色と補色関係にあり、対比的に青色を際立たせ、絵画にメリハリを効かせて、見応えがあるものにしています。
ステンドグラスや植物の緻密さもこの見応え感を高めます。
背景には極めて質素ながら、祭壇が設けられていて、この女性の宗教的に敬虔な心性がうかがわれます。そして、宗教的な敬虔さとともに、それとは相反する肉体的な性的な魅力も併存しています。あるいはこれは色彩の赤と青という補色的な対比にも似て、宗教的敬虔さと性愛という対比があるのかもしれません。
この彼女は下らない男に捨てられた悲哀があるにしても、現在の生活において、貧しくとも、それなりに満ち足りて有意義なものとなっているようです。
ステンドグラスは緻密にして鮮やか。このステンドグラスには、二つのテーマがあるようです。一つは、宗教的なテーマ、もう一つは騎士道(甲冑とユリ)のテーマです。ここにもやはり宗教と性愛という二重性を見ることができます。宗教的なテーマの方は男と女のペアになっていますが、一人はイエスもう一人はマリアでしょう。マリアナが見ているのは、イエスかもしれません。これは、もちろん信仰の対象としてのイエスでありますが、修道女は純潔であるとともにイエスと結婚するということを思い起こしますと、ここにもやはり宗教と性愛の二重性があると考えられます。しかし、もうひとつの見方もありえます。すなわち、中世において描かれるイエスに翼が生えていることもありますが、それよりこの男は翼を持った天使であり、マリアに受胎告知を告げているシーンではないかとも思われます。そちらのほうがずっと可能性が高いかもしれません。マリアナはマリアに同一化していて、マリアが受胎を告げる天使ガブリエルを見るように、うっとりと見ているのです。
マリアナは、刺繍の仕事の後、腰を伸ばしてストレッチをしています。生計を立てるための仕事で腰が疲れたという、生活がにじみ出ていますが、その腰には、非常に巧みな描写で細かくベルトが描きこまれており、彼女の身体は、性的な存在である身体でもあることが強調されています。
まるで修道女に近いような清貧な生活、それは宗教的な生活です。祭壇に灯る火は、何かが消えゆくことを意味しています。一般に蝋燭の火は生命には限りがありやがて消えることを暗示しています。それは宗教的な観点と重なったものでもあります。しかし、消えるものばかりを暗示しているのではありません。それは火だねであると見なすことも出来ます。祭壇の火は、情熱が燃えさかる火だねかもしれません。はたまた、地獄のような業火やも知れません。宗教と性的な情熱は正反対のものではなくて、青と赤のように対立しながらもお互い無関係ではないもの、実は遠からずの関係でさえありうると考えられるものなのです。ここでもやはり二重性が認められると考えられます。
(ラファエル前派展 英国のヴィクトリア朝絵画の夢 - 森アーツセンタギャラリー 2014年1月)
この絵は、清く、清々しいです。自然との一体感。そして若いからだには女性としての欲望の芽と魅力がまだまだ宿っています。
(2018年1月ナショナルギャラリーにて)
オフィーリアは狂気に陥り、自我を失っています。精神はすでに死に、これから肉体が死のうとしています。頭の中の腐敗と、木々の枝のおぞましさが相対しています。この後美しかったオフィーリアの埋葬のシーンがありますが、オフィーリアは土に埋もれたあとは、腐敗することになります。
美しい花の盛りは短いもの、そしてオフィーリアは美しいさなかから一気にそれを失い、髑髏(どくろ)になります。ここではオフィーリアの最後の美しさを描いています。美しく可愛らしい花々や植物が書き込まれています。この花々は手から落ちて、水の上に散らばり流れています。
倒木の根からは新しい芽吹きも見られ、流れに沿って花々が咲き、オフィーリアの再生への願いが込められているようです。
(2018年1月テートギャラリーにて)
・薄塗りを重ねています。
・死と再生のテーマです。オフィーリアの精神が既に死と再生の両方を含み込んだような状態になっています。
Tate, 2020.